さです。人々は一斉に腸管を見つめました。やがて腸は軽く動き出し、凡そ十回ぐらい伸縮を繰返したと思う時、どうした訳か吊してあった糸がぽっつり切れて、腸の上端が、ガラスの容器の縁《ふち》にひょい[#「ひょい」に傍点]と載りかかりました。丁度その方向が容疑者の真正面に当りましたので、恰《あだか》も一匹の白蛇が、彼に向って飛びかかるかのように見えたのです。
 あっと云う間もなく、彼は腸のはいったガラス器をめがけて突きかかりました。ガラスの割れる音がして、水があたりに飛び散りました。その時私は、腸が床の上に見つからなかったので、何処《どこ》へ行ったかと思って見まわすと、彼の首筋の後ろの襟《えり》の間に、とぐろを巻いて載って居ました。男は悲鳴を発し両手を後ろの方にあげて取り除こうとしましたが、つかみ方が間ちがったので、丁度腸をもって首を巻こうとするような動作を行いました。
「ウーン」と腹の中から搾り出すような声を出したかと思うと、どたりとたおれて、後頭部で腸管を圧し摧《くだ》き、凡そ二時間あまりは、息を吹き返しませんでした。無論後に彼は犯人であることを自白しましたが、彼がたおれてから間もなく、口か
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