て、腸の運動の印象を深からしめようとしました。仮に腸を鰻にたとえるならば、頭を糸で吊って、胸まで空中に出し、それ以下を液の中へ沈めるのです。尤《もっと》も切り出した腸は鰻の色とはちがって、全体が薄白く、それが蚯蚓《みみず》のように、而も極めて緩く動くのですから、馴れない者の眼には可なりに気味の悪い印象を与えます。而も死んだ人の腸がいわば生きかえるのですから、殺人犯人によっては、殺された本人が生き返ると同じようなショックを与えるであろうと私は思いました。
 すると果して、私はこの方法によって、可なりに頑固な犯人を、数人白状せしめることが出来ました。
 恋の遺恨で、朋輩《ほうばい》を殺した電気会社の職工は、死体が解剖される間は、にやにや笑って見て居ましたが、やがて私が腸を取り出して、例の装置に結びつけますと、急にその笑いを失い、眼を大きく開いて、蛇のような臓器を見つめましたが、暫く過ぎて、腸がぴくりぴくりと動きかけると彼は額の上に汗の玉をならべ始めました。と、その時腸管が、急にくるり[#「くるり」に傍点]と液の中で一回転したのです。
「ウフッ、ウフッ」
 笑いとも恐怖とも、何とも判断のつき
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