れを蠕動《ぜんどう》させることなのです。
御承知かも知れませんが、人間の心臓や腸は、その人の死んだ後でも、これを適当な条件のもとに置くときは、生前と同じようにその特有な運動を始めるものです。心臓に就《つい》ては、実に、死後二十時間後に於ても、それを切り出して、動き出させることが出来たという記録があります。腸に就てのレコードを私は存じませんでしたが、少くとも心臓と同じくらいのレコードは作り得《う》ると考えました。
はじめ私は心臓を切り出して、これを犯人の眼の前で動かせて見せようかとも考えましたが、心臓を生き返らせる装置は腸のそれに比して遥かに複雑ですから、私の目的を達するには不便だと思って、腸を選ぶことにしました。ことに腸管は、一見蛇のように見え、その運動も、蛇がゆるやかに動くように見えますから、犯人にとっては可なりに強い恐怖を与え、自白せしめることが出来るだろうと予想しました。
先ず、私は実験によって、死後何時間までぐらいの腸を生き返らせることが出来るかを定めようとしました。すると、多数の実験の結果、やはり死後二十時間までの腸ならば例外なく動き出させることが出来るという確信を得ま
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