君は得意げに聞きます。
「分からない」
「明礬《みょうばん》で書いてあるんだ」
「では水に入れると分かるね?」
「ああ」
俊夫君は棚から、指紋を採る道具を出してきて、紙の縁のところに八パーセントの硝酸銀を塗り、窓際において日に乾かせました。しばらくすると、不完全な一つの指紋が黒くあらわれました。
「兄さん、写真機!」
写真機を持ってゆくと、俊夫君は手早く撮影し、後、黒塗り盆に水を満たしてその上へ手紙を広げて浸しました。果たして白い文字があらわれました。
「俊夫君、近いうちに大きな窃盗事件が起こるが、いくら君でも今度の犯人は見つかるまいよ」
と、毛筆で書かれてありました。
これまでたくさん犯人から脅迫状はきましたが、このように盗むことを予告する犯人はまだありませんでした。しかもどこに窃盗事件が起こるか、何が盗まれるか分からぬので、さすがの俊夫君も面食らったようでした。
「どうも見たことのある筆跡だ」
と俊夫君はしばらくして言いました。
「兄さん、この字は、筆の軸の端に糸をつけ、高い所から吊るして書いたものだよ。そうすると、どんな人でもちがった筆跡《て》になる」
それから二三日
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