た五時半頃でした。
扉《ドア》をあけて俊夫君の室《へや》に入ると、俊夫君は手に鉛筆を持って、私が来たのも知らずに考えておりました。
「どうだね、暗号は解けた?」
と私は尋ねました。俊夫君は顔をあげましたが、その眼は遠い所を見つめていました。やがて我に返った俊夫君は、
「まだ解けん」
と苦々しく言いました。見ると机の上には暗号に関する洋書が五六冊開かれておりました。
と、そのとき電話のベルが鳴りましたので、私は立って受話器を外しました。ところが、今まで机によりかかっていた俊夫君は、何思ったか、つと立ち上がって、
「しめた、分かった!」
と言いながら、室の中をあちこち躍りまわりました。
「俊夫君! 電話だ!」
と私が申しましても耳へ入らばこそ、しまいには私の腰へぶら下がって、狂いかけるのでした。
「俊夫君! 叔父さんから電話だ!」
と私は声を強めて申しました。「叔父さん」と聞いて、俊夫君は受話器を耳に当てました。叔父さんの声が大きいので、そばに立っていた私にはよく聞こえました。
「俊夫! 犯人は分かったかい?」
「まだです」
「暗号は?」
「たったいま解式が分かりました」
「
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