の理化学研究所のことではありませんか?
私は俊夫君の知恵に感心しながら、本郷行の電車に乗り、富士前で降りて、研究所に行き、近藤研究室の花井氏を訪ねました。すると、花井氏は快く会ってくれました。
まさか暗号のためとは言えないので、新しい写真術のお話を承りにきたと申しました。
「ああ、あの『読売新聞』の記事を見たのですか?」
と同氏は笑いながら言われました。私の胸は躍りました。
それからおよそ二十分ばかり花井氏の親切な説明を聞いた後、私は暇《いとま》をつげ、何気ない風を装って、
「読売の記者はいつお伺いしたでしょうか?」
と尋ねました。
「昨日《きのう》の午後でした」
昨日の午後ならば、あの記事は今日の新聞に出たにちがいない。こう思って電車停留場へ来ますと向かい側に新聞取次店があったので、転ぶようにその店へ入って、『読売新聞』を買いました。広げて見ると、第三面の下から三段目に、切り抜きどおりの記事がありました。
新聞の捜索が意外に早く片づいたことを喜びながら、早く俊夫君に渡してにこにこ顔が見たいと思いましたが、あいにく日比谷公園で停電に遭って、家に帰ったのは、秋の日も暮れかけ
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