新聞を持ってきてくれと私に申しました。私はそれを聞いて大いに弱りました。あの新聞の切り抜きは必ずしも東京の新聞と限らず、また一月《ひとつき》前の新聞やら、二月《ふたつき》前のものやら分からぬから、捜しだすのは容易なことでないと思いました。
「その新聞をどうするの?」
 と私は尋ねました。
「どうしてもいいよ!」
 と少々機嫌が悪い。
「だって、いつの新聞だやら、どこの新聞だやら分からぬから、一日や二日で捜せるものじゃない」
 と私は言いました。
「馬鹿だな、兄さんは!」
 と俊夫君はいよいよ面《つら》ふくらして言いました。
「だって、そうじゃないか?」
「兄さん、ちと、頭を働かせてごらんなさい。それくらいのことは僕が言わないでも分かるはずだよ。さあ、この切り抜きをあげるから、本郷なりどこへなり、早く行ってきてください……」
 機嫌の悪い時に反抗するのはよくないと思って、私は逃げだすように外へ出ました。が、いったいどこへ行ったらよかろうかと、立ち止まって考えたとき、ふと、俊夫君が今「本郷なりどこへなり」と言ったことを思い出し、私は思わず股《もも》を打ちました。切り抜きの新聞記事は本郷駒込
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