本はなし、まったく僕一人の力で解かねばならぬからね。まず僕はこの『を行って』『での写真』『違って今ま』というのが一つ一つの文字すなわち『ア』とか『イ』とかをあらわしているにちがいないと思ったんだ。
 ところでこの十二組のうち、どれを見ても五字より多いのはないから、何か『五つ』に縁のあるものはないかとしきりに考えてみたんだ。はじめ盲人の点字を暗号になおしたのではないかと思ってみた。が点字は『六つ』からできているのでその考えは捨てたんだ。
 ちょうど兄さんが帰ってきたときに、仮名は仮名としてある記号を代表し、漢字は漢字としてある記号を代表するにちがいないというところまでこぎつけたんだ。すると叔父さんから電話がかかってきただろう。僕ははっと思ったよ。……分かったかい、兄さん?」
「どうも分からぬね」
「だって電話と言やすぐ思い出すだろう?」
「え、何を?」
「仮名がトンで漢字がツーさ!」
「何だいそれは?」
 私はますます分からなくなりました。
「困るなあ電信符号だよ!」
 こう言われて私は初めてなるほどと思いました。トンは電信符号の―、ツーは――で、しかも、文字はトンツーの五つ以下から成っていることを私は思い出しました。
 このとき書生の青木が小さい書物をもって入ってきました。見るとその表紙に『電信符号』と記されてありました。
「兄さん、仮名をトンにし、漢字をツーにして、早く、この十二組の文字を書き直して、どういう仮名文字に相当するか検《しら》べてください」
 私はやっとかかって左のとおり検べあげました。

[#ここから3字下げ]
を行って  ― ―― ― ―     カ
での写真  ― ― ―― ――    ノ
違って今ま ―― ― ― ―― ―  モ
能と見做さ ―― ― ―― ―― ― ル
た赤をは  ― ―― ― ―     カ
黄や緑   ―― ― ――      ワ
至る迄そ  ―― ― ―― ―    ニ
く白い様に ― ―― ― ―― ―  ン
しむる事  ― ― ― ――     ク
に写真術  ― ―― ―― ――   ヲ
影者が之を ―― ―― ― ―― ― シ
とに最もお ― ― ―― ― ―   ト
[#ここで字下げ終わり]

 せっかく検べてみても、「カノモルカワニンクヲシト」では何のことか分かりませんでしたが、ふと顔をあげると、俊夫君は、に
前へ 次へ
全13ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング