紅色ダイヤ
小酒井不木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)土手の児《こ》ら

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)少年科学探偵|塚原俊夫《つかはらとしお》君

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)有り難う※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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   謎の手紙

 これから皆さんに少年科学探偵|塚原俊夫《つかはらとしお》君を紹介します。俊夫君は今年十二ですけれど、大人も及ばぬ賢い子です。六歳の時、三角形の内角の和が二直角になるということを自分で発見して、お父さんをびっくりさせました。尋常一年のとき、
[#天から2字下げ]菜の花や股のぞきする土手の児《こ》ら
 という俳句を作って、学校の先生をアッと言わせました。尋常二年の頃にはもう、中学卒業程度の学識がありました。
 俊夫君は文学が好きでしたけれど、それよりもいっそう科学に興味を持ちました。試みに俊夫君に自動車の構造を尋ねてみなさい、その場で巧みな図を描いて説明してくれます。また試みに象の赤血球の大きさは? と聞いてみなさい。言下に九・四ミクロンと答えます。俊夫君の作った遊星の運動を説明する模型は特許になって、中学校や専門学校で使われています。こういうわけで俊夫君は小学校を中途でやめて、独学で研究することになりました。
 その後間もなく、俊夫君はふとした動機から探偵小説が好きになり、とうとう自分も科学探偵になる決心をしました。探偵になるには動物、鉱物、植物学や物理、化学、医学の知識がいるので、俊夫君は一生懸命に勉強しましたが、三年たたぬうちに、それらの学問に通じてしまいました。
 お父さんは麹町《こうじまち》三番町の自宅の隣に、俊夫君のために小さい実験室を建ててやりました。その中で俊夫君は顕微鏡をのぞいたり、試験管をいじったりして、可愛い洋服姿で夜遅くまで実験をしています。この実験室は、今は探偵の事務室を兼ねております。
 俊夫君の名が高くなったので、近頃は日に二三人の事件依頼者があります。最近迷宮に入った大事件を三つも解決したので、少年名探偵の評判を得ました。しかし探偵という仕事は、命知らずの犯罪者相手のことですから、腕ずくでは俊夫君もかないません。
 それがため命の危険
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