ことと思いますが、如何ですか?」と、私は、ブライアン氏に何か話してもらおうと思って、ひそかに氏の顔色をうかがった。
「ないこともありません」と氏はニコリ笑って言った。「中には随分滅茶々々な鑑定をする医師があります。今晩はだいぶあなたに話してもらいましたから、これから私の関係した事件の御話を致しましょう」
× × ×
「これは数年前、紐育《ニューヨーク》から程遠からぬ田舎で起った事件です」とブライアン氏は言った。
その地方の豪農に、ミルトン・ソムマースという老人があった。よほど以前に、夫人に死に別れてから、一人息子のハリーと共に暮していたが、事件の当時ハリーは二十二歳で、丁度、農学校を卒業したばかりであった。母のない家庭であったため、父子は非常に親密であって、家政一切は、ミセス・ホーキンスという老婆が司《つかさど》り、近所には、ソムマース所有の田地に働く小作たちの家族が群がり住っていた。
ソムマースの家から一|哩《マイル》ばかり隔たったところのスコットという農家に、エドナという娘があった。彼女は、鄙《ひな》に似合わぬ美人で、色白のふっくりと
前へ
次へ
全17ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング