るように思われた。
「風邪を引くといかん、早く帰って寝ようよ」
 丹七はやっと、あさ子をなぐさめて、冷たい寝床にかえるのであった。
 このことがあってから、悲しくも丹七の予想があたって、あさ子の精神に、段々異常の徴候があらわれて来た。彼女は毎夜|深更《しんこう》に家を抜け出しては、恰《あだか》も夢遊病者のするように、諸方を歩き廻った。丹七は始めのうちはそれをとめるようにしたが、とめると彼女の神経を余計に興奮させるように思われたので、後には彼女のしたい儘にせしめたのである。
 彼女は決して昼間は外出せず、又盲目の女のこととて、別に他家や他人に対して害を与えなかったので、丹七は放任して置いたのであるが、後には夜分樹にのぼったり、他家の屋根の上を歩いたりするので、村人が気味を悪がり、とうとう丹七はあさ子を監視して、夜分外出せしめないことにしたのである。村人も事情を知って大いにあさ子に同情したが、如何《いかん》ともすることが出来ず、あさ子の精神異常は一日一日に増して行くのであった。

[#7字下げ]四[#「四」は中見出し]

 こうした矢先、突然、良雄が嫁を迎えるということをきいて、村人は一種
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