良雄に祟るに至ったのである。

[#7字下げ]二[#「二」は中見出し]

 恋が屡々《しばしば》恐ろしい結末を齎《もた》らすものであることは、古往今来《こおうこんらい》その例に乏しくないが、良雄とあさ子との恋仲は、あさ子の突然な失明によって、果敢《はか》なくも、良雄の方から、無理やりに結末がつけられたのである。といってしまえば、読者諸君は、あさ子に対してさほど深い同情の心を抱かれないであろうが、あさ子の失明が、実は良雄の悪疾《あくしつ》に感染しての結果であると知られたならば、諸君は定めし、あさ子を捨てた良雄をにくまれるにちがいない。ましてあさ子の身になってみれば、どんなにか悲しいことであろう。生れもつかぬ盲目《めくら》にされた上、弊履《へいり》のごとく捨てられては、立つ瀬も浮ぶ瀬もあったものではない。
「お父《とっ》さん、わたしどうしよう?」
 彼女は毎日、こういっては、泣いて父親に訴えるのであった。わが子の美しかった容貌が、怖ろしくも変化した姿を見るさえ苦しいのに、まして、頼りとする一人娘が片輪者となって、この先長く、反対《あべこべ》に世話をしてやらねばならなくなったことを思うと、父
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