間もなく、ウーンという物凄いうなり声が聞えて、どさりとたおれるような物音が聞えた。
「若旦那!」
「良雄さま!」人々は口々に叫んだが返事がない。
 男も女も極度に恐怖して顔を見合せた。
 一分、二分、三分。
 相変らず天井からは何の音沙汰もない。と、再び数滴の血が同じ場所から畳の上へポタポタ落ちた。
 良雄の母は狂気のように泣いて、人々に天井へ上って検査して来るよう頼んだ。人々ももはや躊躇すべき時機でないので、母家の方から出入りの若者を三人呼び寄せて天井へ上らせた。
 三人のものが天井へ上って蝋燭の灯によってながめた光景は実に戦慄すべきものであった。その三人のものは、今でも、あの時のことを思うと背筋が寒くなるといって居る。
 天井に居たのは良雄ばかりではなかった。良雄が気絶して仰向きに横わって居る真上には、屋根裏の梁に細帯をかけて、可憐のあさ子が、物凄い顔をして縊死《いし》を遂げて居たのである。
 人々はとりあえず良雄をかつぎ出した。良雄は医師の手当によって間もなく息を吹き返したが、たおれる拍子に、手に持って居た蝋燭が良雄の顔に落ちかかり、灯が運悪く良雄の右の眼を焼いて消えたので、右眼
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