又一滴、ポタリと赤い液体が盃の中に落ちて来た。
ヒャッ! と物凄い叫び声をあげて花嫁が盃をとり落すと、その時、天井から続けざまに数滴の赤い液体が滴《したた》って、花嫁の晴着に、時ならぬ紅葉を描いた。
これを見た花嫁はウーンと唸って、その場に気絶してしまった。
[#7字下げ]五[#「五」は中見出し]
それから、良雄の家にどんな騒動が持ち上ったかは読者の想像に任せて置こう。花嫁はとりあえず別室に寝かされ、附近の町からよばれた医者の応急手当を受けて、一時は蘇生したが、その夜から高熱を発して起き上ることが出来なくなった。
花嫁の盃の中に天井から滴った赤い液体は、いう迄もなく血液であった。
どうして、何の血がこぼれたのであろう? 人々は不審がったが、誰も怖がって天井裏へ検査に行こうといい出すものはなかった。
意外な出来事のために極度に緊張した良雄は、人々の臆病なのに憤慨して、自分で天井裏を探険しようといい出した。
「なーに、猫が鼠をたべた血なんだよ」こういって彼は梯子《はしご》を取り寄せて隅の方の天井板をはずし、蝋燭を片手に天井へはいって行った。
人々は良雄の歩く音を聞いた。と
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