が頻りに痛み出した。
花嫁は高熱に苦しみ、花婿は右眼の劇烈な疼痛に苦しみ、結婚式はさんざんな破目に終った。人々はただもう、あさ子の執念の恐ろしさに戦慄するばかりであった。
然し不幸は単にそればかりでなかった。花嫁の容態はその後脳脊髄膜炎と変じて、約一ヶ月の後平熱にかえったが、脳を冒されて白痴のようになってしまった。又、良雄の右眼の傷は意外にも重性の炎症を起し、早く剔出《てきしゅつ》すればよかったものを、手遅れのために交感性眼炎を発し左眼も同様の炎症にかかり、遂に両眼とも失明するのやむなきに至ったのである。
自分で蒔《ま》いた種は自分で刈らねばならない。良雄は遂々《とうとう》自分の両眼をもって自分の罪をあがなったが、自分の罪が、無辜《むこ》な花嫁にまで及んだことを思うと、今更ながら自分のあさ子に対する行為が後悔された。そうして良雄は自然恥かしさのために郷里に居られなくなり、祖先伝来の家屋敷を売り払って母と共に寂しく名古屋の郊外に移り住むことにしたのである。
どうして、あさ子が良雄の家の離れ座敷の屋根裏にしのび込んだかは今でも疑問とされて居る。花嫁の盃の中に滴った血は、いう迄もなく
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