合併したのではないかと思われるのであります。何となれば初め三回は首尾よく回復し、最後に絶命したからであります。で、実は、あなたは第二回からご診察なさったのですが、その際、病気は単なるマラリアの発作であったか、それとも亜砒酸の中毒症状も合併していたかをお訊ねしたいのであります」
山本医師は非常に顔を紅《あか》くし、頸筋《くびすじ》の汗を唇を歪《ゆが》めて拭《ふ》きながら答えた。
「いや、お恥ずかしい話ですが、わたしが初めて診察したときはなんとも病名がわからず、その次、すなわち未亡人の三回めの発病のときもマラリアとは少しも気づかず、令嬢から事情を聞いて、もしや亜砒酸中毒ではないかと疑ったのです。いままで嘔吐や下痢を伴うマラリアの例には一度も接したことがないのでつい誤診しました。もしマラリアだとわかれば、ただちにキニーネを用いますから、未亡人の第三回の発作は起こらずに済んだはずです。したがって各々の発病の際、マラリアの発作だけであったか、または亜砒酸中毒が合併していたか、はっきりしたことは申し上げかねます」
「しかし、四回めが亜砒酸中毒だったことははっきりおわかりになりましたのですね?」
「それは、わたしが四回とも亜砒酸中毒だと思ったからでして、未亡人が死んだと聞いたとき、死因は亜砒酸中毒に違いないと判断したのです」
「けれど、あなたは四回めのときは診察なさいませんでしたでしょう?」
「急用ができて他行していたために、間に合いませんでした」
「だが、あなたは亜砒酸中毒の起こらぬようにといって、二十九日の朝、書生さんに一包みの薬を持たせてやられたのではありませんか」
「持たせてやりました。しかしそれは、単純な消化剤でして、亜砒酸中毒を防ぐ薬というものではありません。中毒のほうのことは令嬢にわたしの疑念を打ち明けて、それとなく注意しておきましたから、わたしは比較的安心して他行することができました。けれども、やはり気になったものですから、用事の済み次第奥田家を訪ねると、すでに死去されたあとでした」
検事は山本医師の返答を聞いてしばらく考えていたが、やがて言った。
「よくわかりました。してみるとあなたも、亜砒酸中毒だということは、単なる想像によって判断されたのに過ぎないのですね? べつに患者の吐物を化学的に検査されたのではないのですね? そうですか。それではわたしもひとつ、わ
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