また自殺するならば、わざわざ一日置きに四回も苦しむということは考えられません。精神異常者ならばともかく、さもない人がそうした死に方をするとは思われないのであります。
そこで、未亡人の自殺が問題にならぬとすると、次に考うべきことは、未亡人の病気がはたして亜砒酸中毒であったかどうかという問題です。未亡人は前後四回同じ病気に襲われていますけれど、四回ともはたして同じ病因であったかどうかは容易に断ずることができないのであります。わたしのごとき素人にはわかりませんが、症状が酷似しても原因がまったく別な病気は沢山あるらしく思われます。そこでわたしたちは、ここにおいでになる片田博士にお願いして、亜砒酸中毒以外に何か未亡人の身体から別の病原を発見することができはしないかと思い、その方面の綿密な検査をしてもらったのであります。
すると意外にも、片田博士は死体の血液検査の結果、血球の中にマラリアの原虫を発見なさったのであります」
3
検事は最後の言葉を一語一語はっきり言い放って、その言葉が相手にいかに反応するかをじっと見つめた。
はたして強い反応があった。すなわち山本医師は、
「えっ? マラリア?」
と、驚きの叫びを発して片田博士のほうを向き、本当ですかと言わんばかりの顔をした。
博士はこの時、静かに口を開いた。
「そうです、明らかに三日熱の原虫を血球の中に発見しました。したがって、未亡人の死んだときにはマラリアの発作も合併しているわけですし、またそのことによって未亡人が一日置きに、しかも同じ時間に悪寒・発熱・嘔吐を起こしたことをよく了解することができます」
「けれど、嘔吐がマラリアのときに起こることは稀《まれ》ではありませんか」
と、山本医師は反対した。
「いかにも稀ではあります。しかし、決してないことではありません」
と、片田博士はにっこり笑って言った。
「ヒステリーの婦人がマラリアに罹ると、はげしい嘔吐を起こしたり人事不省に陥ったりしますから、いろいろの中毒と間違えられるのです」
「そこで」
と、検事は二人の会話を横取りして言った。
「未亡人がマラリアに罹っていたとすれば、少なくとも四回の発病の際、四回ともマラリアが合併していたと考えてもよかろうと思います。いや、もう一歩進んで考えるならば、初め三回は単なるマラリアの発作で、四回めに亜砒酸中毒が
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