だ過失だといったそうです」
「患者はどんな男かね?」
「父親と一しょに区役所につとめて、製図をやっているそうですが、父親はもう五十年も勤め、息子も十七年から通っているそうです。人嫌いな臆病な性質《たち》で、いつも家の中に引き籠《こも》って、あまり外出もしないおとなしい男だそうです」
「そうか、とにかく、その家を検べて来よう」
プライス探偵は二人の部下と共にフルトン街へ来た。クロッツ家を訪うと、女中が出て来て、皆さんが留守ですからといって拒絶したが、警察からだときいて、已《や》むなくプライスたちの自由に任せた。
「ヘンリーさんは昨晩どうして怪我《けが》をしたのかね?」と探偵は室内の女中に訊ねた。
「何でも、薬品が爆発したそうで、旦那様と奥さまとで一時間ばかり手当をなさいましたが、どうしても血がとまらぬので、病人運搬車をよびました」
ヘンリーの居間はやはり惨憺たる光景を呈していた。家具は大方壊れ、壁には大きな孔があいていた。それにも拘わらず、隣の人たちが爆発の音を聞かなかったのは不思議であった。
器物の破片の中に混って、数種の薬品を入れた罎が無事に横わっていた。見るとそれには、いずれ
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