くて老人の「白状」も、この事件の謎を解く鍵とはならず、事件は又もや迷宮に入った。オファレルが犯人でないことは明かとなったが、しからば以上三回の犯罪を行った本人は誰であるか。かような恐ろしい犯罪者が、今以て、市中を横行闊歩しているかと思うと、警察も焦燥せずにはいられなかった。
 あまつさえ、新聞は再び警察を攻撃したので、警察や探偵たちは躍起となって活動したが、犯罪の動機がよくわからないために、全く暗中模索の有様であった。ヘララ一家のものには、別に他人から恨みを受けるような事情がなかった。問題の日にヘララのアパートメントに出入した人々の穿鑿《せんさく》に取りかかっても、これという怪しい人物は見当らなかった。犯人が手ずから小包を運んだのに違いないから、或は犯人はその附近に住むものであるかもしれぬという考のもとに捜索を行っても結果は陰性《ネガチヴ》であった。
 犯罪事件が迷宮に入ると警察は沢山の匿名の手紙を受取るのが常であって、時には犯人自身が匿名の手紙を出して警察を迷わすようなことがあるが、今回集った手紙の中に、例のタイプライターで書かれたものは一つもなく、また素人たちの探偵的暗示にも、何一
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