引したのである。
 オファレルは正直な男であって、生れてから一度も警察の空気に接したことがなかったため、訊問の際頗るどぎまぎした。彼は、爆弾の箱が入口に置かれてあっただけで、誰がいつ持って来たのか少しも知らないといったが、警察の方では彼が手に持って入って来たのであるから、たとい彼自身が犯人でないとしても、少くとも犯人と何かの関係がなくてはならぬと、段々問いつめて行くと、遂にオファレルは「恐れ入りました」と白状した。
「では、どういう訳でヘララ一家を殺そうとしたのか」と警官が訊ねた。
「存じません」
「ではウォーカーとはどういう関係があるか」
「ウォーカーという男は知りません」
「ウォーカーは女だ」
「尚更存じません」
「ロザルスキー判事を知っているか」
「聞いたこともありません」
 何を訊いても老人は知らぬ存ぜぬといった。何処で火薬を求めたか、どうして爆弾を作ったか、使用したタイプライターが何処にあるかということなど何一つ彼は返答することが出来なかった。
「それでは何故白状したか?」
 老人は悲しそうな顔をして暫らく黙っていたが、やがて言った。
「でも白状せよとの仰せでしたから」
 か
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