であって、夕方から風雨がはげしくなったが、俄かに延期することもならず、会はそのまま開かれた。しかし、招かれた客は一人も欠席せず、所定の時間には、所謂《いわゆる》綺羅星《きらぼし》の如く着飾った婦人連と、夜会服に身を固めた男子連が、雲の如くに参集した。
戸外の喧囂《けんごう》たる状態とは反対に、戸内では順序よく晩餐が終って、やがて舞踏会が開かれた。管絃楽の響は、さすがに風雨の音を圧迫して歓楽の空気が広いホールの隅から隅に漂った。白昼の如き電燈の光は無数の宝石に反射して、ポオの作『赤き死の仮面』の、あのダンス場の光景を思わしめる程であった。
と、突然、電燈が消えて、ホールの中は真の闇となった。即ち、強風の為に起った停電である。三十秒! 一分! 依然として電燈はつかなかった。音楽は止んで人々は息を凝《こら》した。その時、ホールの一隅にパッと一団の火が燃えてドンという音がした。ヒューという戸外の風の音と共に、二三の婦人は黄色い叫び声を挙げた。次《つい》でどさどさ人々の走る音がした。外相官邸は瓦斯《ガス》の装置が不完全であったから、電気の通ずるまで待たねばならず、従って何事が起ったか少しもわ
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