浮んだ。
「実は犯人はわかったのですよ」
「え?」と私は驚いて、思わず松島氏の顔を見つめた。
「びっくりするでしょう。内閣が更迭したのも犯人が知れたためです。そうして犯人の名は正式には発表されなかったのです」
「その犯人の名をあなたは御存知なのですか?」
「知っていますとも。実はその犯人が知れたのは、私があの事件に、内密に関係したからだといってもよいです」
 私は好奇心のために、息づまる思いをした。私は松島氏に向って、是非その探偵の顛末をきかせてくれと頼んだ。
「お話し致しましょう。その筋の人はもう大抵知っていて、いわば公然の秘密といってもよろしいから、お話しても差支ないと思います。犯人の名を知っている人の中でも、私があの事件に関係したことを知っているのは非常に少ないと思います」

       二

 一九××年九月二十一日の夜、D外務大臣の官邸で、盛大な晩餐会兼舞踏会が開催された。この会合は、ある重大な政治的、外交的の意味をもって行われたのであって、当夜は首相をはじめ各国務大臣夫妻、各国の使節夫妻、その他内外の顕官が招待されて一堂に集まることになった。その日は朝から空模様が頗る不穏
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