したので、外相官邸は当分の間依然として前外相の家族によって住《すま》われていた。
首相の御声掛りだったので、数十人の人々が、所定の時刻に参集した。まったくの秘密だったので、この夜のことは勿論新聞などに記載されなかった。人々は半ば好奇心をもって来邸したが、中にも警視庁の人々は、I総監をはじめとして、松島氏がどんな実験をして、どんな風に犯人推定を行うかと胸を躍らせて待ちかまえた。
やがて松島氏は人々にホールの中へはいって貰い、外相の殺されたところに、首相とI警視総監に先夜のように着席してもらった。人々はどんなことをするのかと片唾《かたず》を嚥《の》んだが、その時首相から二|間《けん》程隔って立った松島氏が左の手を上げると、その途端に夫人の手で電燈が消されて真闇《まっくら》になり、次でパッと一団の火が燃えたかと思うとドンと音がした。松島氏がピストルを打ったのである。実験とはいいながら、さすがに人々は肝《きも》を冷したが、程なく再び電燈がついて、首相にもI警視総監にも何の異常もなかったのでホッとした。総監は過去一ヶ月間の心労によって、その頬に窶《やつ》れが見えたが、電燈がついた時、いかにも
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