かったが、三月二十一日の午後突然意識を失ったかと思うと、翌二十二日敢えなくこの世を去った。
 次はウインの話である。
 ウインのある街に絹物を商う店があった。ある朝雇女の一人が顔色を変えて主婦に向って言った。
「おかみさん、わたしゆうべ大へんな夢を見ました。恰度ここから三軒先の革屋の店先で真黒な犬が、火のような眼をして、牙を鳴らしながら何か物をたべていました、あんまりその姿が物凄かったので恐ろしさの余りその場に立すくんでしまい、声を上げて救けを叫ぶとそれで眼がさめてしまいました。きっと、あの革屋の家に何か事が起きたに違いありません」
 主婦はそれを聞いて笑いながら彼女の意見を否定すると、彼女はいよいよ真面目になって、
「いいえ、ほんとうです、確に今に何事かが起るに違いありません」
 と、どこ迄も真面目に主張するのであった。
 すると午前十時頃になって裏通りが俄かに騒しくなり、大勢の人だかりがして来たので何事が起きたのかと、主婦が聞いてみると、三軒先の革屋の主人が昨夜《ゆうべ》首を吊って死んだということであった。

     耳を叩く

 ドイツの話である。ある重病の女患者が久しく床につ
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