ているのかと、窓をあけて辺りを眺め廻した。けれども街の上にも又家の附近にも何者の姿も見えなかった。不審に思って彼女は姪のマリーに向って、
「確かに聞いたでしょう」
と言うと、マリーは蒼ざめて頷いた。
するとその時、隣の寝室から詩人メーリケが、
「誰だ、あの音楽はどこだ」
と叫んだ。
が、もうその時は音楽は消えて辺りは、もとの静けさに返っていた。
程なくメーリケは寝巻のまま二人の所へやって来て、悲しそうな顔をして、
「誕生日も今日で到頭おしまいだ」
と叫んだ。
果して彼は翌年の六月四日に死んで、七十一回の誕生日を迎えることが出来なかった。
夢と死
不吉な夢と死との関係を示す例は日本にも尠くないが、西洋にはかなりに豊富にある。
アメリカに、ある若い臨月の女があった。三月五日に、余程以前に亡くなった父の夢を見た。その時父は手に大きな活字のめくり暦を持って、黙って三月二十二日を示していた。
醒《さ》めてから彼女は姉をはじめ親戚の者に夢の話をして、多分三月二十二日にお産があるだろうと話した。ところが予期に反して三月十二日に子が生れた。産婦はその後夢の話を口にしな
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