世間には内証で行ったことであるが、アメリカのある木乃伊研究者はこの謀計を察して、館の当局者をなじったので、止むなく館長は地下室へ伴って現物を見せてやった。するとアメリカ人はいっそ内証でアメリカへお譲りにならぬかと言った。そこでさんざん持ちあぐんでいたこととて、間もなく相談一決してアメリカへ譲ることになった。そうしてそれを積み込んだ船は、かの今に人々の胆を寒からしめたタイタニック号であった。

     空中の音楽

 西暦一八七四年九月八日詩人メーリケはス市の閑居で七十回の誕生祝をやった。祝と言っても近親数人を招いただけであって、あっさりした晩餐が済むと間もなく詩人は寝床に入って眠った。ほどなく人々も去ってただ詩人の妹のクララと、娘のマリーだけは後片附をするとて長らく起きていた。
 すると段々夜が更けて行って、辺りはしんと静まり返えり、木の葉の落ちる音さえはっきり聞えたが、突然二人の耳に美しい音楽が聞えて来た。それは恰度竪琴のような楽器の音《ね》で二人はいつの間にか微妙な曲調に魅せられて手を休めてうっとりと聞きとれていたが、やがてクララははっと我に返って、さて、どこで誰があの音楽を奏し
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