#「すけ」に傍点]に出た男も大怪我をした。
 いよいよ博物館に納められて、順序として写真を撮影することになったが、写真師が助手を連れてやって来ると、天候のせいかどうしても光線の工合が悪かったので別の日に撮り直すことにして博物館を出たが、写真師は乗合自動車に乗る時に拇指《おやゆび》をはさまれて骨を挫き、助手が家へ帰ってみると、子供の一人は硝子《ガラス》窓にぶつかって重傷を負っていた。
 こういう噂が拡まると後には木乃伊を眺めただけで祟りを受けるという風に言いふらす者が出来て来た。余りに評判が高くなったので時の宰相アスキスは、そんな馬鹿なことがある筈はない。その証拠に自分で行って見て来ようと言い出した。けれども閣僚達はもしものことがあっては内閣の更迭が行われぬとも限らぬので極力|諫《いさ》めてそれを思い止どまらせた。
 博物館の番人達は当然異常な惧《おそ》れをなし、館長に向って、木乃伊を動かして下さるか、さもなければ私達はやめさせて頂くと言いだした。そこで幹部たちは鳩首合議の結果模造品を作って置き換え、本物を地下室へ入れることにした。それ以後祟りの話はぱったり絶えてしまった。もっともこれは
前へ 次へ
全12ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング