チンク夫人が、一九一四年二月エルサレムへ旅行して、船がポートセードに着くと突然甲板へ印度人の予言者が乗り込んでつかつかと夫人の前へ寄って来て、
「未来を予言しますから二ポンド下さい」
 と言った。
 夫人は余りその種のことを好まなかったが、どうしたはずみか急に好奇心が湧いて二ポンドの紙幣《さつ》を印度人に与えた。
 やがて件の印度人は、甲板に跪きながら暫らく御祈りめいたことをしていたが、突然立ち上って、
「八月、八月にはどえらい事がある」と叫んだ。夫人は驚いて息をはずませ「私の身の上にか?」
「いえいえ、世界中が血だらけになるのです」
 こう言って彼は去ってしまった。
 八月果して欧洲戦争が起った。
 手相からも深い予言が出来るらしい。ヘロン・アレン氏の手相に関する書を読むと、同氏がかつてロンドンの郊外の友人の宅で、若い女に手相を見て貰ったことを書いている。彼女は言った。
「あなたはかつて婚約なさいましたが、あなたの気儘で破約なさいました。恰度二年程の前のことですが、それ以来あなたの健康が勝《すぐ》れなくなりました」
 もっと言おうとしたのをアレン氏は手を引込《ひっこめ》てしまった。と
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