はみな蓋を取って中を検べました。まるで白金が工場のどこかに隠されてでもあるかのように、いわば血眼《ちまなこ》になって捜しました。最後に西側の下の棚の上に、盆にのせた土瓶と茶碗とがあるのを見て、俊夫君は木村さんに尋ねました。
「このお茶は誰が飲むのですか」
「私ですよ」
 とこのとき工場へ入ってきた竹内さんが申しました。その口のきき方がいかにも俊夫君を馬鹿にしているような口調でして、私もいささか腹がたちました。
 俊夫君は土瓶の蓋を取って見ました。
「竹内さんが飲むお茶だけに、中々うまそうな色をしている」
 と、俊夫君も負けてはいません。ずいぶん皮肉な言い方をした。

 工場の中の検査を終わった俊夫君は、居間へ来てから木村さんに申しました。
「工場の検査はこれですみましたよ」
「手掛かりはありましたか?」
 と木村さんは俊夫君の顔をのぞきこんで尋ねました。
「まだ大事な検査が残っているから、それがすまなければ何とも言えません」
「それは何ですか」
「木村さんと竹内さんの身体検査です」
「え! わたしらがとったと思うんですか」
「何とも思わぬけれど、検査には念に念を入れておかねばなりません
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