てありました。
俊夫君は探偵鞄の中から拡大鏡を出して、まず床の上を検《しら》べました。けれど、別に手掛かりになるような足跡などは一つもなかったと見えまして、やがて、窓の中側に落ちている硝子片を熱心に検べ、硝子の割れ穴の大きさをはかりました。それから硝子戸をあけて格子を見ました。果たしてそのうちの二本が鑢《やすり》で切られ、左右へ折りまげてありました。
それから俊夫君は閾《しきい》を検べ、さらに、懐中電灯を取りだして、戸外を照らしました。地面には芝生がいっぱいかぶさっていまして、硝子の破片はその上にも落ちていました。俊夫君は、何思ったか、しばらくの間その破片をじっと見つめておりました。
「なかなか気のきいた泥棒だ」
と、俊夫君は嘲《あざけ》るように申しました。俊夫君がそういう言い方をするときは、必ず反対の意味を持っております。すなわち「気の利いた泥棒」というのは、「間の抜けた泥棒」という意味にとって差し支えありません。
それから、俊夫君は細工台の上の物や、細工台についている引き出しの中のものをいちいち丁寧に検《しら》べました。次に棚の上のものも同様の熱心をもって検べ、箱らしいもの
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