ラス》を割ったので、驚いて顔をあげると、割れ口からいやな臭いのする冷たい風がヒューッと吹いてきて、そのまま覚えがなくなってしまい、木村さんに介抱されて正気づき、初めて白金の塊のなくなったことを知ったというのです。
俊夫君はこの竹内という人を、虫が好かぬと見えて、これまで、よく私に「いやな奴だ」と申しておりましたが、今、竹内さんの話を聞きながらも、俊夫君は、時々|睨《にら》むような目付きをして眺めましたから、私は俊夫君が竹内さんに嫌疑をかけているのでないかと思いました。
竹内さんの話を聞いてから、俊夫君は木村さんについて工場へ行きました。いやな臭いがプンとしてきました。工場は居間の隣にあって、居間よりも一尺ばかり低く、タタキ床で、三方が壁に取りまかれた八畳敷位の大きさの室《へや》でして、居間とは扉《ドア》で隔てられております。窓は北側にあって二枚の硝子戸がはめられ、その外側には鉄格子がつけられてあります。そして窓から二尺ばかり離れて細工台が置かれ、その上には色々の瓶や細工道具がぎっしり置きならべられ、なお三方の壁には棚がつけてあって、その上にも、色々の瓶や化学器械がいっぱい置きならべ
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