私はとうとうたまりかねて、
「おい俊夫君!」
 と呼びますと、はじめて我にかえったように私の方を向いて、ニコリ笑い、自動車のもたれ[#「もたれ」に傍点]によりかかりました。
「パンなど買ってどうするの?」
 と私は尋ねました。
「木村のおばさんのところで朝飯《あさめし》を食うんだ」
「え! 朝飯を?」
「そうよ、おばさんのうちには、おいしいお茶があるよ。竹内さんさえ喜んで飲んでるじゃないか」
 私は先刻、木村さんの細工場に、竹内さんの飲むお茶の土瓶のあったことを思い出しました。
「僕もいっしょにご馳走になろうか?」
「いや、兄さんは先方へ着き次第、警視庁へお使いに行ってもらう」
「え? 警視庁? では犯人の見当がついたのかい?」
「まだ何とも分からんさ。けれどもことによると大きな捕り物があるかもしれん」
 と俊夫君は眼を輝かして申しました。
 しばらくしてから私はまた尋ねました。
「君は先刻、エックス光線をかけにゆくにはそれだけの理由があると言ったが、あれは本気だったかい?」
「もちろんさ!」
「どんな理由?」
「それはいま言えない」
「だって二人とも白金を飲んではいなかったじゃないか
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