?」
「そんなこと、初めから分かっていたよ」
「え?」
私はびっくりしました。二人が白金を飲んでいないことが分かっていたら、何のためにわざわざ岡島先生を煩わしたのであろうか。私はどう考えてみても了解することができませんでした。
程なく自動車は木村さんのとこへ戻ってきました。物音を聞きつけたおばさんは、外へ走りだしてきました。
「俊夫さん、どうでした?」
とおばさんは尋ねました。
「二人とも白金は飲んでおりません。僕は途中に用があったので先へ来ましたが、あとから二人は見えます」
私たちは、自動車を待たせて家《うち》の中へ入りました。
「おばさん、竹内さんの下宿はどこでしょうか?」
「芝区新堀町一〇の加藤という八百屋の二階です」
「ちょっと、封筒を一枚恵んでください」
おばさんが封筒を持ってきてくれると、俊夫君は、鉛筆で手帳へ何やら走り書きをしましたが、それからその頁《ページ》を破って封筒の中へ入れました。
「兄さん、これを警視庁の小田さんの所へ持っていってください。ゆうべはたしか宿直の番だったから、それから僕は事によると十時頃までは帰らぬかもしれぬが、うちで待っていてくれ」
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