あ、先生はちっとも、わたしに同情してくださらない。昔、中国の何とかいう女は鉄の柱によりかかって鉄の玉を妊娠して産み落としたというではありませぬか。わたしにも、メデューサの首を妊娠するだけの立派な理由があるのです」
「それはどういう理由ですか」
「では先生、一通りわたしの身の上話をしますから聞いてください。わたしはもと奇術師の△△一座に雇われていた女優でした。わたしの孤児であるということが、そうした運命にわたしを導いたのですが、ほかの人たちと違って身持ちがよかったために少しばかりのお金を貯《た》めることができました。ああいう社会へ入ると、とかく堕落しやすいのですが、わたしには生まれつきの妙な癖があって今日まで処女を保つことができたのです。その妙な癖というのは、さあ、なんといってよいのでしょう。先生はむろん、ギリシャ神話の中のナーシッサスの伝説をご承知でしょう。ナーシッサスが双子の妹を失って、悲しみのあまりある日泉を覗《のぞ》くと自分の姿が映り、それを妹だと思って懐かしんだというあの悲しい話を。わたしはちょうどナーシッサスが自分の身体に愛着の念を起こしたように、われとわが身体に愛着の念を起
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