こすのでした。わたしの朋輩《ほうばい》たちが、恋だの男だのと騒いでいるのに、わたし一人は自分自身を恋人として男を近づけるのをかえって恐ろしく思いました。男を近づけて、その男のためにわたし自身の恋人、すなわち自分の身体を奪われることが惜しかったからです。わたしはいつも一人きりになると、鏡の前に坐《すわ》ってじっと、その奥にあるわたしの身体を見つめました。肩のあたりから、胸へかけての柔らかい曲線がいうにいえぬほど懐かしみを覚えさせて、思わずも鏡に接吻《せっぷん》するのが常でした。といって、わたしは肉体的・生理的に不具なところはありませんが、異性に対しては何の感じも起きませんでした。わたしの美貌《びぼう》――自分で言うのは変ですけれど――を慕って、わたしに近づいてくる男はかなりに沢山ありましたけれど、わたしはただ冷笑をもって迎えるばかりでした。手を握らせることさえわたしは許しませんでした。たまたま他人の身体がわたしの身体に偶然触れるようなことがあっても、わたしは自分の身体に対して、激しい嫉妬《しっと》を感じました。わたしは自分の容色を誇りました。しかし、それはただ自分の心を満足させるためであ
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