も考えるであろう。して見ると自殺を決心したものの心持ちは、自殺を決心しないものには到底理解し能《あた》わぬものだといえる。まったく自殺を決心したものの心持ちは、自殺者のみの知るところであって、世の自殺者はこの点に大《おおい》に誇りを感じてしかるべきであろう。
 いよいよ自殺を決心した以上、今更、未練がましい言葉をつらねるのも気恥かしいが、思えば、君と僕とは何という奇《く》しき運命のもとに置かれたのであろう。
 すでにその姓が同じ「加藤」であるということ、又同じ年に生れたということからして、不思議といえば不思議だが、しかも、同じ環境に育てられ、同じく医学を修め、その上、同じく恒子《つねこ》さんに恋をするというのは、むしろ呪われた運命であるといってよい。
 二人の男が一人の女を恋する。それはもう、劫初《ごうしょ》以来、人類の世界に、無数に繰返された悲劇である。そうして恋の敗北者が底知れぬ苦悩の淵につき落され、そのために死を選ぶに至ることも、同じく無数に繰返された喜劇[#「喜劇」に傍点]である。君よ、僕はあえて喜劇という文字を使った。何となれば恋の勝利者から見れば、それは喜劇というより外にい
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