ある自殺者の手記
小酒井不木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)見做《みな》そう
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)千|仞《じん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)喜劇[#「喜劇」に傍点]
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加藤君、
僕はいよいよ自殺することにした。この場合自殺が僕にとって唯一の道であるからである。
断って置くが、僕は決して、最近死んだ某文士を模倣するのではない。世間の人は二つの自殺が相前後して発生すると、後の例を前の例の模倣であると見做《みな》そうとする。しかし、これほど馬鹿げた話はない。そんな風にいうならば、世の中のすべての出来事は模倣でなくて何であろう。
が、僕はいま、このような理窟をいっている場合ではない。けれども、僕の自殺の動機だけは、僕の最も親しい君に告げて置きたいと思う。物事を深く考えたがる連中は、さもさも自殺者の心理が他人の推測をゆるさぬような複雑なものであるようにいうけれど、少くとも僕の場合は、決して複雑なものではない。複雑などころか、簡単過ぎる程簡単なものである。
又、自殺者は、多くは何の
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