て枯川から手紙が来ました。
 其冒頭には「一月一回と限られたる此貴重なる手紙を、僕は今満腹の愉快を以て君に送る、併し用事以外の事を多言するの自由を持たぬ、只僕身神共に健全、日日清閑、読書に耽る、是だけの事を同人諸君と読者諸君と僕の妻とに御伝へを乞ふ」と書いて、其他は平民社経営に関する意見を示してある。
 平民社の経営、是は我等の目下講じつゝある問題です、元より此儘維持することは難事でない、戦争の狂熱最高度に達した時でも、我等は我等の大主義を絶叫するの余地があつた、況んや号外の声は疲れ、戦争物は売れなくなり、戦争の社会に及ぼす影響が明白に多数国民の間に了解せらるゝの今日をやです、一時ドウかと気遣つた売行も、先づ此分では心配もなさそうです。
 併し我等は此儘では満足出来ぬ、消極に維持するだけでは満足出来ぬ、積極に其歩を進めねばならぬ、体裁も内容も着々進めて行かねばならぬ、発行部数も増加せねばならぬ、此点は目下計画相談中であるのです、目下は人手が少ないので、是れ以上に直ぐドウするといふことも出来ないのですが、枯川の出獄を機会に、一段の飛躍をしたいと思ふ。
 枯川の刑期も半ばを過ぎて、後と三週
前へ 次へ
全13ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸徳 秋水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング