筆のしづく
幸徳秋水
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【テキスト中に現れる記号について】
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ツカ/\と小暗き廊下に没し去れり
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから7字下げ]
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一
近日何ぞ傷心の事多きや、緑雨は窮死し、枯川は絏紲の人となる、風日暖にして木々の梢緑なる此頃の景色にも、我は中心転た寂寞の情に堪へず、意強き人は女々しと笑はん、我は到底情を矯むるの力なし。
緑雨は病めりき、左れど彼の死せるは病めるが為めに死せるにはあらず、病を養ふ能はざるが為めに死せるなり、繰返していふ、緑雨の死せるは病ありしが為めにあらず、金なかりしが為めなり。
彼は心やさしく、友に厚かりき、左れど今の世に処せんには彼は余りに正直なりき、余りに男らしかりき、彼は常に曰へらく、「我は武士の子なり」と、然り彼の気質は余りに武士らしかりき、故に餓えたり。
彼は紅葉君の如く落合直文君の如く、若くば広瀬中佐君の如く、葬式の盛大なることに依りて、其死後を栄せらるゝ程の個人的勢力を有せざりき、又有せんとも願はざり
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