塞は、こんなでは無かつたらうか、数十町につゞく高塀の厳めしさ、四方に聳つ高櫓楼の恐ろしさ宛がら天魔の怒りて立てる如く、途行く人を睥睨して居る。
 桃太郎の画本に在る鬼ヶ島の城門のやうな鉄扉を入りて、控室に来れば多くの婦人が待て居る、「私はやつと六年目に面会に来ました」といふ労働者の妻らしきが、貧にやつれて憐れなるがあれば、「宿が此処へ来るやうになつたのは、丁度此子が漸と立つ時分でした」と、十歳位ひの娘の頭を撫で居る商家の女房らしきがある、嗚呼世に十年二十年の間人間の自由を奪はねばならぬ程の罪悪とは、果してドンな罪悪であらうか、我等には殆ど想像が出来がたい。
 若し今の軍隊と監獄とに使ふだけの費用が初めより教育と衛生と生産業に投し尽されて、其途を得たならば確かに今の刑法なるものは不必要となると、我等は信ずる。
 刺を通じて二時間待つて枯川に面会した、頬に少しく瘠は見ゆるやうだが、夫れは初めの程、飯が何分マズくて十分食へなかつた故らしい、此節はモウ馴れて仕舞つて、健康に障りはない、仕事はない、短い間だから、読めるだけ読むつもり、書物は同時に二冊しか許されない、先月の平民社の会計は困つたらう
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