、所謂「自由恋愛」の理想が、大胆に且つ清高に描き尽されたるに在り。
所謂「戦争物」なる出版物の売行、近日大に減じ、出版者中、非常の窮境に陥る者ありといふ、吾人は戦争を金儲けの具に供するを悪めり、されど其失敗の甚しきを見ては聊か気の毒の感なくんばあらず、彼等も亦徒らに自由競争制度の犠牲となれる也。
平民新聞は初めより、俄かに大に売れざりき、故に俄かに大に減することなし、俄かに大に利することなかりき、故に俄かに大に損することなし、平民新聞は唯だ多数同志の確かなる信念と固き覚悟に依て援助され維持されつゝあり。
吾人は戦争熱の高低如何に関せず、世上の景気の如何に関せず、依然として主義の為めに尽し得ることを喜ぶ、刻一刻に吾人の運動の歩を進め得ることを喜ぶ。
三
両月程前に枯川の一家と、雑司ヶ谷に、雀焼食ひに行つた其汽車で、去六日巣鴨の獄へ志した、花は青葉と変りて、見渡す限りの麦畑の波を吹く風誠に心持が善かつた、池袋駅に着いて、アレかと眺める赤煉瓦は先づ無限の感慨を惹く。
仏国の革命党が壊したバスチールの牢獄は、こんなでは無かつたらうか、モントクリス伯の捕へられたデーフの要
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