に彼のキユリオシチーを満足せしむべきぞ、彼れが二ヶ月の後ちに持還るべき土産は確かに刮目すべき価値あらん、我は彼を傷めども亦た彼を羨まざるにもあらず。
裁判所の建物の宏壮偉大なるは、吾人平民として見るたび毎に驚嘆せしむ、西川生曰く「此建物が労働者の長屋だつたらナア」と、左なり斯る建物が労働者の長屋となる世なりせば、社会は如何に幸福なるべきぞや、此処の広庭に一株の晩桜咲乱れたるあり、秋水の妻は曰く「こんな処でも花は咲て居ます」と、げに自然は虚心なり、人の楽しむと否とに関せず、依然として美なり。
二十二日の朝より平民社楼上に枯川が哄笑の声を聞かず、淋しき哉、左れど多忙なる編輯は、此淋しさの真趣をすら味ふを許さゞるを如何にせん。
上に掲ぐるは緑雨の肖像なり、去三十四年小田原養痾中の写真なり、眉目の間、如何に天才のきらめけるかを見よ、されど今は亡し。
二
領土大なるの国必しも幸福に非ず、兵力強きの国必しも平和に非ず、国家組織の理想は、民人をして衣食足らしめ、礼節を知らしめ、自由ならしめ、平等ならしめ、安寧ならしむるに在り、今の世に瑞西の如きは殆と是に近し。
圧制、貧困、罪
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