寧に礼をして、
「先生、病死に違いありませんかね」
「狭心症に間違いありませんよ」
「いつ頃ですかなア、死んだのは」
「さようさ。今の様子が死後十時間|乃至《ないし》十四、五時間という所ですから、死んだのは昨夕《ゆうべ》の八時から十二時の間でしょうか」
「八時から十二時」と巡査は手帳につけながら、「その間にこゝへ帰って来た訳ですなア」
「帰ってすぐ死んだとするとその通りですな」
「なるほど」と、手帳を訂正しながら、「帰って来たのはその以前《まえ》かも知れませんなア。然し、帰って来たのが十二時以後という事はあり得ない訳ですか」
「まアそういう事です」
「他殺でもなく、又変死でもなく、只《たゞ》の病死だとすると、問題はない訳ですが、念の為に署の方へ報告して置きましょう」
 長井巡査は手帳を閉じてポケットに入れると、さっさと歩いて行った。
 寺本医師も帰り支度をしながら、お徳に、
「この人は伯父さんから別荘を譲られてから、昨日初めてこゝへ来たんだね」
「そうでごぜえますだ。先《せん》の旦那がなくなられますと、すぐ手紙が参《めえ》りまして、儂《わし》はなくなった人の甥っ子だが、別荘さ譲り受ける
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