が書斎の籐椅子に腰さ掛けて眠っているでねえか。あれまア、こんな所で転寝《うたゝね》さして、風邪引くでねえかと傍《そば》さ寄ると、俺《おら》もう少しで腰さ抜かす所だったゞ。旦那さアは眠ったようにオッ死《ち》んでるだア」
「そいつは事だゝ。すぐにお医者さア呼ばらなくちゃならねえだ。俺《おら》、町まで一走《ひとはし》りして来《く》べい」
「八さア、頼むからそうして下せえ。俺《おら》、この辺で待ってるだ。俺《おら》、一人であの家へ行くのは、おっかなくて、とても出来ねえだよ」
 お徳は今更のように身顫いしながらいった。


          僕は生きてる

「之アどうする事も出来ない。すっかり縡切《ことき》れている」
 八太郎の急報で飛んで来た町の寺本医師は死体を一眼見ていった。
 それから眼を引っくり返して見たり、聴診器を当てたり、綿密に調べてから、
「狭心症だ。若いのに可哀想に――大分|以前《まえ》から心臓が悪かったらしいな」
「昨日初めて合いましたゞが」お徳はいった。
「蒼い顔さしていましたゞ。だが、こんな事になるなんて、夢にも考えましねえだったゞ」
「兎に角、遺族[#「遺族」は底本では
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