ちょっくら様子のいゝ人だアよ」
「それでお前、オッ惚《ぽ》れたちゅうのかい」
「この人《ふと》は。馬鹿|吐《こ》くでねえ。俺《おら》の年でハア、惚れるのなんのちゅう事があるもンけえ」
「ハヽヽ、怒るでねえ。それからどうしたゞね」
「昼間は家ン中や庭さ歩き廻って、何するでなしにソワ/\してたっけが、夕方になって、俺《おら》頼まれた通り夕飯さ拵《こしら》えて持って行くと、どこにもいねえだ」
「いねえ――どうしたゞね」
「分らねえだよ。兎《と》に角、どの位《くれ》え探してもいねえだ。どこかへ行っちまったゞよ」
「だけども、可笑《おか》しいでねえか。飯さ頼んで置いてよ」
「俺も可笑しいと思ったゞが、いねえものはいねえさ。断りなしに帰《けえ》るとは変な人だと、ちっとばかり腹さ立ったゞよ。だけどよ、不用心だと思って、締りさちゃんとして引上げたゞ。所が八さア。今《い》ンまの先、別荘の前さ通ると、裏口が開いてるでねえかよ。俺《おら》不審に思って庭さ這入《へえ》って見ると、雨戸が一枚こじ開けてあるだ。俺《おら》、大きな声で呼ばったゞ。何の返辞もねえだ。恐々《こわ/″\》中さ這入《へえ》って見ると旦那さア
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