っている。望月刑事は何気なくそこを通り過ぎようとして、見物の中に一人の男を発見して、急に立止った。ゾロリとした着流しで、帯の間に両手を挟んでニヤリ/\しながら盤に見入っているのは、疑いもなく小浜信造だった。刑事は一寸声を掛けようかと思ったが、相手が迷惑するといけないと思って止めて、その代りに信造と盤とを見比べながら様子を眺めていた。
 大きな碁盤には例の通り、黒と白の木で作った碁石《いし》代りのものが、二三十並んでいる。黒はどこへ打っても、すぐ四三か四々が出来て勝てそうだ。所が白に旨い手があって、先に五が出来て止るようになっている。二手《ふたて》目に黒の勝にならなければ、三十銭なり五十銭なり出して、薄ぺらな五六銭にも値いしないようなパンフレットを買わなければならないのだ。
 連珠屋はうるさいほど喋りながら、しきりに客に勧誘する。見る/\二三人の人が手を出して、必勝だと確信していたのがみんな外れて意外な顔をしながら、金を払った。
 刑事は世の中は広いものだ、よくこんな軽率な人の種の尽きないものだと思いながら、もう興味がなくなったので、そこを離れようとすると、信造が声を出した。
「一つやっ
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