」司法主任は反問した。
「えゝ、知ってますとも、従兄弟《いとこ》です。もしかしたらそうじゃないかと思っていたんですが。あゝ、卓一君、可哀想に――こ、こんな有様で死ぬとは――」
「ふむ、従兄弟ですか」榎戸警部は信造と死者とを見比べながら、「実によく似ている。従兄弟とはいいながら実によく似てますなア。然しこの人はどういう訳でこんな所へ来たのでしょうか」
「それについて心当りがあります。実は僕は卓一君と昨日こゝで会う約束があったのです。尤もそれは僕の方からいい出したのではなく、卓一君の方で至急に秘密で会いたいといって来たので、秘密の用ならこゝがいゝだろうといってやりました。卓一君からは折返して、では金曜日の午後――つまり昨日の午後ですね、別荘の方に行くからという手紙が来ました」と、信造はポケットを探ぐって、クチャ/\になった手紙を取り出して、「之です。この通り、金曜日の午後行くと書いてありましょう。それで僕は管理人の竹谷さんの所に手紙を書いて、別荘を掃除して置いて貰って、昨日朝からやって来たんですが、卓一君は午後になっても姿を見せず、僕は元来気短かで待たされるのは何よりも苦痛なんですが、一生懸命に辛抱して夕方までいました。然し、夕方にはもう耐《たま》らなくなって、大体向うから会いたいといって置きながら、約束を守らないとは人を馬鹿にするにも程があると、腹が立って、むしゃくしゃして、とうとうお徳さんにも断らず、ここを飛び出して、東京へ帰って終ったのです」
「なるほど、その後で卓一君は来た訳ですか」警部はうなずきながら、「その秘密の用件というのはどういう事でしょうか。お差支えなくば――」
「多分金の事だろうと思います。卓一君はちょい/\金の相談を持ちかけましたので――大方何かいゝ事業があるから投資しろとか何とかいう事でしょう」
「なるほど、ではあなたは之までに卓一君の勧めで、時々投資なすったという訳ですか」
「いゝえ」信造は飛んでもないという風に首を振って、「卓一君の事業と来ちゃ、お話にならない事ばかりでしてね、帽子の中に畳み込みの傘を入れて置いて、イザ雨という時にボタンを一つ押すと、パッと拡がるという発明だとか、靴の下に車をつけて、背中に蓄電池を背負っていて、小さいモーターで廻す発明だとか、そうかと思うと、海の水から金《きん》を採るとか、日本中の猫を買い占めるとか――」
「な
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