屈《きゅうくつ》でも二三日この家にいて下さい。二三日すると、盗んだ書類は無事に仲間に渡せます。仲間のものが国へ持って行きます。ハハハハ」
 シムソンはそう云いながら、机の上の呼鈴《よびりん》を押しました。やがて、扉《ドア》をノックして入って来たのは、背の高い、見るから獰猛《どうもう》な面構《つらがま》えをした外国人でした。
「ソーントン。お客さんを地下室に御案内なさい」
 シムソンは外国語で命令しました。ソーントンと云う部下は黙ってうなずいて、ポケットから大型のピストルを取り出して、仁科少佐に突きつけながら、
「どうぞ、こちらへ」と下手な日本語で云いました。
 少佐は覚悟をきめたと云う風に、悪びれずに立上りました。そうして、ソーントンに送られて、部屋の戸口に歩み寄りますと、シムソンは何と思ったか、急に呼び留《と》めました。
「軍人さん、ちょっとお待ちなさい。あなた折角ここへ来て、直ぐ地下室へ入れられるのは、余り残念でしょう。ここへ来られたお礼です。秘密書類がどこにあるか、教えて上げましょう。お国の大事の大事の書類は、麹町郵便局に留置《とめおき》郵便にして置いてあります。あなた、いい土産
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