。仁科少佐は残念そうな顔をしましたが、云われるままに椅子にかけました。
シムソンは少佐の前の肘付椅子《ひじつきいす》にドッカリ腰を下しました。そうして、油断なくピストルを突きつけながら、
「あなた軍人ですね。何しに来ましたか」
「――――」
少佐は歯を食いしばって答えません。
「答えなくても、私には分っています。あなた、秘密書類|奪《と》りに来たのでしょう」
「――――」
「あなた、口惜《くや》しそうな顔をしていますね。けれども、あなたのやり方は乱暴です。私の邸には電気仕掛の報知器がついています。盗みに入る事はなかなか出来ません。でも、あなたはさすがに日本軍人、勇敢ですね。たった一人でここへ来るとは」
「やかましい」少佐はうるさそうに云いました。「僕は失敗したんだ。何も云う事もないし、聞く事もない。早く好きなようにしろ」
「ハハハハ、日本軍人、勇敢だけではありません。負け惜しみが強いです。ハハハハ」
シムソンは相手が何も出来ないと見て、まるで猫が捕えた鼠を弄《もてあそ》ぶように云うのでした。
「私、あなたを殺しません。殺すと、後の仕事に差支えます。けれども逃がす事は出来ません。窮
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