話でしょう。感謝しませんか」
仁科少佐はきっと唇を噛みました。ああ、何たる卑劣漢! 少佐が袋の鼠で、どんな事があっても逃げ出せないと知って、わざと弄《なぶ》る為に、秘密書類のありかを毒々しく云うのです。
「有難う。シムソンさん」少佐は眼を怒りに燃えながらも、言葉は優しく云いました。「それを聞けば私も安心して地下室の牢に行けます。あなたはそんな事を口走ったのを、きっと後悔する時が来るでしょう」
「後悔する? アハハハハ、それはあなたの負惜しみです。あなた、その事を誰に伝えられますか。ハハハハハ。私、決して後悔する事ありません」
ソーントンは二人の会話がよく分らないらしく、シムソンの言葉が終ると、直ぐピストルを少佐に押しつけて、グイグイと部屋の外に押出しました。
恐ろしい仕掛
ソーントンが仁科少佐を地下の牢に連れて行くのを見送っていたシムソンは、暫くすると、急に思い出したようにぎょッとしながら、部屋を出て、仁科少佐が破って飛込んだ窓の傍に行きました。そして、キョロキョロとあたりを眺めて、ホッと安心したように彼の国の言葉で呟《つぶや》きました。
「やはり、あの男一人だ。他には
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